予告どおり、今回はミュージックビデオについて。
まず、もうご覧になった方ならお分かりの通り、このビデオは演奏シーンとストーリーの2部構成になっている。
そしてこのストーリーの下敷きとなっているのは、ぼくが最も愛する一本の映画である。
1971年公開の名作「小さな恋のメロディ」が、それ。
まだこの映画を観たことがないなら早く観た方がいい、というあの歌をなぜぼくが書けなかったのか、と悔しい思いをしたのは17才のことだった。これはぼくの、ささやかな復讐でもあるのだ。
実は、ぼくのストーリーは最初、草むらで新聞を広げてはしゃぐ女の子たちを、木陰からじっとのぞく男の子のシーンから始まっていた。
これはご存知のとおり、「小さな恋のメロディ」のワンシーンのオマージュだ。
放課後、草むした墓地でミック・ジャガーが載った新聞に嬌声をあげる女の子たちを、影からのぞくダニエル… という、あのシーンである。
ぼくのストーリーでは、女子たちが新聞の「有名人」にキャアキャアとはしゃいでいる所をのぞいてしまった少年が、つかつかと歩み寄ってその新聞を強引に奪いとってしまう。
なぜなら、自分が恋心をよせるヒロインも、その輪に入っていたからだ。
(だがヒロインは、本当は有名人なんかに興味はない。ただ友達の会話に水を差したくなかっただけである。)
そしてストーリーは、教室のあのシーンへとつながる。
先生に「この作文は、どういうこと?」と詰問され、無言のまま広げてみせたあの新聞は、草むらで女子から奪った新聞だったのである。となりの席のヒロインがここで意味ありげに笑うのは、そういうことだ。
この草むらでのシーンを、ぼくはすべてカットしてしまった。
曲の展開と映像のテンポを考えての、苦渋の決断である。
カットした部分は他にもあって、それはリリーさんが新聞社のデスクに主人公のへそくりと証明写真を持って帰り、部下にむかってそれをポイ、と投げて「これ朝刊の広告、一面で。できるよね? じゃよろしく。」と言うシーン。
逆らえない部下はアタマを抱えるワケだが、この部下役をつとめたのは、いつもぼくらのライブを撮っているカメラマンの松本時代だった。彼は銀幕デビューのチャンスを私によってもみ消されたわけだ。それ以来、彼から連絡が来ないが元気だろうか。
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実は打ち合わせの段階で、この「小さな恋のメロディ編」の他にも2パターンのストーリーを持っていったのだが、惜しくも不採用となった。そのうちの1編は、特典の「古倫比亜新聞・HMV版」に掲載している。
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そしてメンバーによる演奏シーンである。
昔、なにかで見たThe StrokesのMVで、メンバーのパーツ(演奏中の手や靴、ギターのつまみ、たばこをはさんだ指、等)のアップだけで構成されたものがあったのをふと思い出し、それをヒントにした。
フェティッシュに撮ることを心がけたつもり。
ゴッホに扮したぼくの後ろから西日が射したのは偶然。撮影スケジュールが少しでも巻くか押すかしていれば、ああはならなかった。
ちなみにゴッホが切り落としたのは右耳であるが、撮影後ぼくの右耳に大きな腫れ物が出来たことも書き記しておく。
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いよいよ発売まで1週間を切った。
名古屋、大阪で会えたすべての人に握手を。
受けた取材の数はもう覚えていない。あとまだ音楽誌が数誌、ラジオ・テレビ出演もある。
取材本数の多さは、作品へのひとつの評価である。
今日は午前中にマルハルと出かけ、洋服屋で散財。シャーツ2枚、スェーター1枚、デザートブーツ1足。欲・欲・欲!
そして堅実な人は留守番。えらい!
午後スタジオ。