台風が近づいているそうだ。
今はまだ雨足も弱く風もないが、翌朝がピークだという。
幸い、明日は仕事が夕方からなので今晩はこうして日記でも書きながらレコードをかけて、シェルター・フロム・ザ・ストーム、なんて気分をたのしむ。
さて、昨日の編集作業をもって、“ゴッホ”MVがついに完成した。
映像編集は中目黒にて、川村ケンスケ監督の師事のもと2日がかりの作業。
現場で撮っている時の「スピード感」と、編集で曲に合わせた時の「スピード感」のズレにMV製作の難しさを知る。
映画のように(もしくは現実のように)時間がゆったり流れたり早まったり、を行き来するのではなく、一定のビートに乗って、一定速度で流れてゆく映像こそMV的なのかもしれない。
しかし、川村監督の「でも志磨くんが撮る意味はそこにあるんじゃない?『MVらしくない』モノであるべきだよ」との助言にポン!とヒザを打つ。いつもながら単純である。
本当に、本当にいとおしい作品ができあがった。
もう昨晩から、ゆうに30回は観ているが、それでも観飽きない。ずっと観ていたい。ついニマニマしてしまう。
きっとドレスコーズマニアにはたまらないカットがいくつもあって、今はそれを一日も早く、皆さんと共有したい。
「あのアングルが…」だとか、「あの一瞬の表情が…」だとか。
「ハルオってチャラいよね…」だとか!
(撮影中はぼくの心のギャルがぎゃあぎゃあ大騒ぎして大変だった)
つまりこれは、ドレスコーズを最も近くで見ている男による、彼らのベストカット集でもあるのだ。
しかし、そのドレスコーズを最も近くで見ている男にも盲点があって、それはボーカルのヤツだけが常にずっと死角。という致命的なものである。
とにかく自分のカットにどうやってOKを出せばいいのかがまったくわからなかった。どのカットにも「うん… まあ… こんなもんでしょ…」程度の感想しかもてないのだ。
ひとまずボーカルのヤツに関しては、そこそこに映りの良いものを選んだ。ということにしておく。
そして、打ち合わせ中の映像(→http://www.youtube.com/user/thedresscodesCh)をご覧になった方ならもうお気づきだろうが、このMVは演奏シーンとドラマ・パートのふたつの流れで成り立っている。
リリー・フランキーさんにもご出演いただいたこのドラマは、“ゴッホ”と同じテーマから派生したもうひとつのストーリー、という趣のもの。
こちらについては、公開後に詳しく書くことにする。
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最近もテレビ番組で演奏を収録したりたくさんの取材をうけたり、と忙しくしていた。
そして昨日は編集のあと深夜の新宿ロフトへ。
TOWER RECORDSの国広氏による、勇退前の最後のイベントがあったため。
ライブがハネたあとのフロアでは、国広氏を慕うバンドマンや関係者が大勢残って打ち上げの真っ最中である。
しかし、おそらくぼくこそが国広氏にもっともお世話になった男で、この無念さはちょっと筆舌に尽くしがたい。
イベントでは丸山康太と越川和磨が並んでDJをする一幕もあったそうだ。
「いいヤツつかまえたな」と彼が言うので、ぼくはいかしたヤツとしかバンドは組まないよと答えた。
たとえばぼくの墓標には、「世界で最も素晴らしいロックンロール・バンドに二度も在籍した男」と刻む。あまりに幸福な、幸福な人生。
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明日はビデオのショートバージョンの編集(ちょっと気の利いたアイデアを思いついたのだ)、そのあと某ラジオ局で寺山修司に関する番組の収録。
寺山の著作をいくつか読み返してから眠ろうと思う。窓の外は雨風が強くなっている。
もうひとつの世で
血を吐く苦労でくらしていたとき
黒さは良いことであり
道はどろんこだった
わたしが荒野から
形のない生物から逃れてくると
「おはいり」と彼女がいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
この道をもういちどとおったら
安心して休めるよ
わたしは彼女のためにはいつも最善をつくそう
そのことは約束しよう
はがねの目の死の世界で
勝とうとして戦う男たちよ
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
ふたりはひとこともしゃべらなかった
ほとんど危険はなかった
その点まではすべて
未解決のままだった
想像してごらん
いつも安全であたたかい場所を
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
わたしは消耗で焼けつき
あられに埋められ
やぶでかぶれ
道で息切れがし
ワニのように狩りたてられ
はたけの中でふみにじられていた
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
とつぜん わたしがふりむくと
そこには彼女が立っていた
腕に銀の腕輪をはめ
髪に花かざり
すごくしとやかによってくると
わたしの茨の冠をとって
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
いまやふたりのあいだに壁がある
なにかが失われた
あまりにもあたりまえのこととおもいすぎた
わたしの信号は混乱した
おもってもごらん すべては
なんのへんてつもない朝にはじまったんだ
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
保安官補は痛い釘の上をあるき
牧師は乗馬馬にのる
しかしなにもたいして問題じゃない
問題なのは運命だけだ
そして一つ目の葬儀屋
彼はむだなラッパを吹く
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
生まれたばかりの赤ん坊が泣くのをきいた
朝のハトのようだ
それから歯の欠けたじいさんたちが
愛もなく立ちおうじょうしていた
あんたの質問がわかるかというのかい
希望もなく すがるところもないのかい
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
丘の上のちいさな村で
みんなはわたしの着物に賭けた
わたしは救いを期待したが
彼女は死の一服を盛った
わたしは純真さをささげたが
けいべつでむくわれた
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
わたしは異国に住んでいる
が国境をこえなくてはならない
実はカミソリの刃をあるく
いつしかわたしはやってみせる
もし時計をもどせさえしたらなあ
神と彼女が生まれた時まで
「おはいり」と彼女はいった
「あんたに嵐からの隠れ場所をあげるから」
《Shelter From The Storm / Bob Dylan》